他人の舌で焼肉が食べたい。
2022年現在、私は20代前半の男性なのだが、大人になって時間が経たないうちに老化現象というものを実感している。
成長の山を登り切り、これから老化していくだけの身体。
どうしてそんなことを言うのか。
明確に、味覚がなくなっていっているからだ。
私は目が悪いほうではない。ずっとモニターの前で生活してきたが、眼鏡をしたことがないくらいには目がいい。だから、見えているものが見えなくなる感覚が分からなかった。
今、私は視力が悪くなるのに似た感覚を舌で感じている。あるいは感じているのは脳かもしれないが。
とにかく、昔の私はもっと食べ物の味をくっきりはっきり認識できていた。そのときの感覚を今から得ることはできない。ただ、記憶の中に少しだけ残っていて、思い出すたびそれと同じ感覚をもう得られないのかもしれないとがっかりする。
このまま老化が進めば、どんどん味が分からなくなり、どんどん目が見えなくなり、どんどん耳も聞こえなくなり、どんどんと壁にぶつかっても痛くなくなるのだろうか。
感度3000倍が羨ましく思える……
「自分の見ている色が他の人と同じとは限らない」という話を知っているだろうか。
簡単な話、みんな違う眼と脳を持っているから、同じものを見ても同じように感じないのではないかという話なのだけれど、結局それを確かめるには他人の眼と脳を自分の脳にくっつけなきゃならない。別に難しい話がしたいわけじゃない。
他人の目で物を見たいという気持ちは割と一般的なものだと思う。
同じように、今の私は他人の舌で物を食べたい。
何が食べたいだろう?
辛いものと苦いものは嫌だな。酸っぱいものもそんなに好きではない。
ああ、焼肉が食べたい。肉の味が好きなのではない。概念としての焼肉が食べたい。
焼肉にはなんとなく豪勢なイメージがある。
牛タン……牛の死体の舌を薄く切って焼いて自らの舌と絡める……ケモナーのネクロフィリアのディープキスみたいな料理だが、味は割とさっぱりして悪くない。
ああ、焼肉が食べたい。
子供の時の舌で食べたい!
牛の死体の舌を薄く切って焼いて感度の高い子供の舌と絡めたい!!!!
小児性愛でケモナーのネクロフィリアのディープキスみたいな文章になってしまったが、今の私の素直な欲望だ。
ただ、他人の舌で焼肉が食べたいんだ。